「全部やってくれたから、楽だったよ」

老朽化が進んだ集合住宅を、建て替える——。都市の安全性や防災性を高めるうえで必要なプロジェクトですが、その裏で生まれるのが「住まいを離れなければならない人」の存在です。
とくに、高齢の単身世帯にとって住み慣れた場所を離れるのは、大きな不安を伴うこと。私たちATCでは、そうした方々の移転に伴走し、“次の暮らし”を共につくる支援を行っています。

今回ご紹介するAさん（仮名）は、長年、地元と呼べるこの地域とつながりながら暮らしてきた方です。
住んでいた築数十年を超える木造アパートの建て替えを前に移転のご相談をした際、当初は「何もかもが大変そうだ」と少し戸惑われていました。ですが、こう語ってくださいました。
「古い家だったし、いつ引っ越してもいいなとは思ってたんだ。全部やってくれたから楽だったよ。何もしなくてよかった」

ATCでは、単に「空き物件を紹介する」だけではなく、住まい探しの同行から行政による支援制度の申請サポート、家財の移動や給湯器・エアコンなど生活設備の手配まで、一連の支援を一体で提供しています。
Aさんが新居を決めた理由の一つは、仏壇がぴったり置ける間取りだったことでした。「不動産屋の女の子が一緒に探してくれてね。仏壇がぴったり入ったから、だから決めたの」と語るように、“条件”だけでなく“気持ち”にも寄り添った住まい提案が求められます。

また、移転後の生活にも不安はつきものです。Aさんの新しい住まいは、以前の家から踏切を渡ってすぐの場所。
「俺は向こうが本町だけどね。この土地に60年以上住んでっから、みんな知ってるのよ」
地元を離れずに暮らせるという安心感も、支援の中で大切にしています。
「区役所から補助が出るっていうから、クーラーもつけてもらえたし。引っ越した家に友だちを呼んだら“きれいじゃん”って言ってくれたよ。ほんと、よかったよ」

古い物件を生まれ変わる建て替えの裏には居住者様の移転があり、こうした人と人との対話と、暮らしの再構築があります

私たちATCは、老朽住宅の再生が「地域の安全」を守ると同時に、そこに暮らす人の“これから”を支える機会であると考えています。
社会的な課題に、個人の人生が飲み込まれないように。支援のすべては「新しい生活が、きちんと始まる」ためのものです。